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福岡高等裁判所 昭和32年(ネ)447号 判決 1958年1月31日

控訴人 原告 三和町川原農業協同組合 代表者理事 浦里又五郎

訴訟代理人 山中伊佐男

被控訴人 被告 野母崎町脇岬農業協同組合 代表者理事 山口茂

主文

本件控訴を棄却する。

被控訴人は控訴人に対し一五万円及びこれに対する昭和三二年一二月一六日以降完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払うこと。

控訴費用はこれを二分し、その一を控訴人の、その余を被控訴人の負担とする。

事実

控訴人は第一位に「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し一五万円及びこれに対する昭和三一年四月五日から完済にいたるまで一〇〇円につき一日四銭の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、当審において新たに、予備的に主文第二項同旨の判決を求め、被控訴人は、控訴棄却並びに予備的請求棄却の判決を求めた。

事実及び証拠の関係は、控訴人において「本件一五万円の消費貸借が法律上無効であるとすれば、被控訴人は控訴人の財産により同額の利益を受けると共に控訴人は同額の損失を被むり、かつ、被控訴人の右利益は現存するものというべきであるから、予備的に、不当利得に基いて被控訴人に対し一五万円の返還を求める。しかして、右の予備的請求及びその原因事実を記載した準備書面は昭和三二年一二月一五日被控訴人において受領しているから、主文第二項同旨の判決を求める。」と述べ、当審証人今任末一の証言、当審控訴組合代表者浦里又五郎、同被控訴組合代表者山口茂の各尋問の結果を援用し、被控訴人において「右予備的請求の原因事実は否認する。控訴人主張の準備書面を主張の日に受領したことは認める」と述べた以外は、原判決の「事実」に示すとおりであるから、ここに引用する。

理由

一、控訴組合の第一位の請求の理由がない所以は、以下補加する外原判決説示のとおりである。

農業協同組合法(以下組合法と略称し、農業協同組合を組合と略称する。)第一条第三条第一〇条第一二条等の規定によると、組合の行う諸種の事業のうち、金員の貸付についていえば、組合は組合員に対しその事業又は生活に必要な資金を貸し付けるのを本務とし、たとえ、組合員に対してでも、その事業又は生活に必要でない金員を貸し付けることは許されていないことが明白である。そして、組合員以外の者に対しては組合法第一〇条第三項に特例を設けて「組合は定款の定めるところにより、組合員以外の者にその施設を利用させることができる」旨規定し、組合の施設を利用する途を開いてはいるものの、定款の定めるところによらないかぎり、組合は組合員以外の者に対し自己の施設を利用させてはならない制約を受けている。組合が組合員以外の者に金員を貸し付ける行為は、同条項の「その施設を利用させる」行為の典型的なものであり、同条項及び同条項に基く定款の規定に違反する貸付行為は、組合の事業の範囲外の行為であつて、あるいは組合の基礎を危くし、ひいては組合設立の目的にも反するものであるから、法律上無効であると解するのが相当である。(なお組合法第九九条参照)この点組合法第一条第一〇条第一二条第四四条第五九条ないし第六一条及びその外特別の規定に服するいわゆる中間社団法人たる組合とかような規定に服しない、企業自由の営利を目的とする商事会社と趣を異にするところである。これを本件について見るに、控訴組合が本訴の金員を被控訴組合に対し貸し付けたことは、後記二に説示する通り明らかであるけれども、当事者弁論の全趣旨及びそれぞれ成立に争のない甲第三号証(控訴組合定款)第四条・乙第二号証(被控訴組合定款)第四条並びに組合法第一二条の規定によると、被控訴組合は控訴組合の組合員でないことが明白である以上、つぎに前示組合法第一〇条第三項所定の控訴組合の定款の定めについて検討すれば、右定款(甲第三号証)第五六条には「この組合(控訴組合を指す)は、組合員の利用に差し支えのない限り、組合員以外の者に第二条第一号から第四号まで、第七号、第九号から第十一号までの事業並びにこれらの事業に附帯する事業を利用させることができる。但し第二条第一号の事業の利用にあつては、この組合が金庫事務を行つている地方公共団体に限るものとする。」旨規定されているので、控訴組合は、非組合員たる右地方公共団体に対しては、貸付をなしうるけれども(原判決中原告(控訴)組合の定款には同組合がその組合員以外の第三者に対し金銭貸付をなしうる旨の規定がない旨説示している部分は誤りであるから、引用しない。)、その余の非組合員に対しては、金員を貸し付けることのできないことが明らかであるので、本件貸付行為は、前説示の理由により法律上無効であるといわなければならない。よつて、これが有効であることを前提とする控訴組合の請求は排斥するの外はない。

二、成立に争のない甲第一・二号証、原審及び当審証人今任末一の証言及び当審における各当事者の代表者両名の尋問の結果によると、被控訴組合は預金者野母崎町から預金の払戻の請求を受けたのに、手持の現金が不足したため、控訴組合に懇請し昭和三一年四月五日控訴組合から一五万円を弁済期同年同月二五日利息日歩四銭の約で借り受け、その頃野母崎町に対し右預金債務を弁済したことが認められる。この認定に反する原審証人木村重太郎の証言は採用しがたく、乙第一号証及び原審証人松尾乙一の証言をもつては、右認定を左右することはできないし、その外に右認定を動かす証拠はない。そして、先に説示したとおり、前示消費貸借は、法律上の効力を生じないので、被控訴組合は控訴組合に対し不当利得として右一五万円を返還する義務があることは、前認定の事実関係から了解されるところ、(この義務があることは、被控訴組合主張の組合総会の議決した借入の最高限度を越えると否と、右貸借につき同組合理事会の承認の有無を問わないし、また右貸借が被控訴組合の当時の代表者個人が借用したものであるとの主張は前認定にてい触する。)事実摘示の控訴人主張の準備書面を昭和三二年一二月一五日被控訴組合において受領したことは当事者間に争がないので、被控訴組合は控訴組合に対し、一五万円及びこれに対する昭和三二年一二月一六日以降完済にいたるまで年五分の割合による遅延損害金を支払うべきである。

三、右に見たとおり、控訴組合の第一位請求を棄却した原判決は相当で、これに対する控訴は理由がないが、当審において新たに主張した不当利得を原因とする予備的請求は理由があるので、これを認容し、民事訴訟法第三八四条第九五条第九二条を適用し主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 鹿島重夫 裁判官 秦亘 裁判官 山本茂)

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